豊田徳治郎「碍の字を常用漢字に」に対する質問

当初は関戸紹恭(あっきー)さんに、後に豊田徳治郎さんに直接お尋ねした内容は下記のとおり。残念ながら「質問はこれで最後にしてください」と言われたので、豊田さんの回答をここに表示することはできません。

同内容のツイッターのモーメントも別に用意してあります。

一件目。『碍の字を常用漢字に』によれば、布令字弁が明治政府の許可で発行された旨。が、当時は出版条例の元、基本的に「全書籍が官許」であったはず。また当時の他の官許辞書は、多くがウ冠の障害を載せていない様子です。となると特に布令字弁が厚遇された根拠は何処に?
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こんにちは、数日と申しましたがお尋ねしたいことが概ねまとまりました。

厳しい問いが並んでいます。しかし研究者を名乗った以上、当然に応じなければならないものばかりであること、また芦屋の名士がかのようなご主張で自身の経歴に泥を塗ってほしくないという思いからであることより、ご寛恕いただきたく存じます。

先にも申しましたが、豊田徳治郎さんの『碍の字を常用漢字に』は「碍」への変更に非常に悪い印象を与えることになる不味いものだと考えています。反対派を勢いづかせるか、賛成派が反対派に暴力的に変更を強要するかの二択になってしまうからです。

私も現在は必ずしも「障害」を良しとしていません。しかし1990年代以来、「碍」の字を利用せんがために、豊田さんのみならず、何人もの方が根拠のない仮想史と捻れた理念を主張してきてしまいました。

はじめから、「自分が希望して入ったわけではない自分の分類に、人を傷つける意味のある漢字を使われるのは嫌だ」とそれ一本だけで主張し抜けばよかったのです。ですが、無根拠な歴史認識と、偽物の多様化・国際化主張のためにかえって不審感を与えてしまった。

関戸さんは「丁寧な説明が必要な部分もあろうか」とおっしゃいました。ですが残念ながら、元の主張を翻さない説明はほぼ不可能であろうと予想しております。それでも一縷の望みを質問に託します。

反対派の多くは、別の適切な新しい言葉なら良しとしていると思われます。ですから、私は「被障者」の語を今後提案しようと考えています。できることなら豊田さん、関戸さんにもこちらの案、もしくはより良い別の案にのっていただきたく存じます。

前置きが長くなりました。先行の一件目に加えた残り十一件の質問、以降に並べてまいります。

二件目です。『碍の字を常用漢字に』1頁、ウ冠の害の不都合性は関係者に共通と断言されていますが、2016年11月の一ノ瀬メイ発言とその反応、2017年12月のホーキング青山氏の著書、加えて18頁に寄稿した佐藤さんも参加された2010年「障がい者制度改革推進会議」での議論他をなぜ除外しているのですか?

三件目です。『碍の字を常用漢字に』2頁、『「一概念一表記」は我が国の国語政策の基本原則の一つといわれています。』の典拠は何ですか。

四件目です。『碍の字を常用漢字に』18頁に寄稿した佐藤久夫さんは「障がい者制度改革推進会議」の時、常用漢字に石偏の碍を入れてもその表記に強制されない旨主張されていました。一概念一表記はこれと正反対の態度ですが、佐藤さんは正反対であることを了解していますか。

五件目です。『碍の字を常用漢字に』3頁、障害(者)の代替語を同じ読みの語に制限して論じているのはなぜですか。例えば「被障者」であれば漢字だけの差し替えに反対している人も納得できると考えますが如何ですか。

六件目です。『碍の字を常用漢字に』4頁、「(ウ冠の障害を戦前に)直接ヒトに対して使用された例は見つかっておりません。」とのことですが、明治14年の黴毒新論にある「睾丸ノ機能障害」のような例は数に入れないのですか。13頁「医学用語ではない」との関係ではどうですか。

七件目です。『碍の字を常用漢字に』5頁、多摩市が障害表記に疑問を呈したのは平成13年、つまり2001年のはずですが、1990年代末という書き方をされているのはなぜですか。

八件目です。同じく『碍の字を常用漢字に』5頁、ウ冠の障害表記に最初に疑問を呈したのは多摩市ではなく河東田博(1992)ほか民間の多くの方だと思うのですが、多摩市(または市民)が最初に気がついたような書き方にしているのはなぜですか。

九件目です。国会図書館デジタルコレクション等で明治期の辞書を調査したところ、どうも障碍・障礙・障害という単語全体が、明治に入ってから広く使われだしたと思われるくらいには採録辞書が少ないのですが、『碍の字を常用漢字に』執筆にあたり江戸以前にも障碍が【広く】使われていた根拠はありましたか。

十件目です。日本語が中国語よりも音を混用しやすいことに起因する漢字表記の特徴は、【多数派の中国語漢字利用者に少数派の日本語利用者が寄り添う形で】拒絶されるべきだとお考えですか。『碍の字を常用漢字に』を公開するにあたって多様性を認め合う社会に反対することに決めたのですか。

十一件目です。『碍の字を常用漢字に』は、全体的に根拠の薄い話を中心に、またあることをないことにして石偏の障碍者表記を進めたい趣旨の文章になっていますが、目的のためなら間違ったことでも権力で正しい根拠として認めさせるべきである、とお考えですか。

十二件目、現時点で最後のお尋ねです。『碍の字を常用漢字に』が誤っていた場合の告知や対応はどのような形で行われますか。

以上、関戸さんご自身におかれましても、以上のお尋ねが意味する『碍の字を常用漢字に』の不味さをご把握頂いた上で今後の活動を再考いただければと存じます。よろしくお願いいたします。